最初の頃は、
わりと順調だった。
修行で教わった通りにやれば、
家事も育児も回っている気がしていた。
ミルク。
オムツ。
抱っこ。
お昼寝。
一つ一つのタスクは、
ちゃんとこなせている。
「よし、いける」
そう思っていた。
でも、赤ちゃんは
こちらの“予定”なんて、
まったく知らない。
まず、泣き止まない。
抱っこしても、
ゆらしても、
歌っても、
なぜか泣き続ける。
やっと落ち着いたと思ったら、
今度は
おしっこや、うんちが爆発する。
服だけじゃない。
シーツも、タオルも、
ときには自分の服も巻き込まれる。
「……え、これどうすんの?」
という状態で
洗濯物が増えていく。
さらに、夜。
夜泣きが激しかった。
特にパートナーが
夜勤を再開してからの夜はきつかった。
家の中には、
自分と赤ちゃんだけ。
泣き声が響く。
抱っこして、
歩き回って、
やっと寝たと思ったら、
数分後にまた泣く。
その頃から、
体にも変化が出てきた。
抱っこや授乳の姿勢で
肩や腰が痛くなり、
手首は腱鞘炎になり、
だんだんと
腕に力が入らなくなっていく。
そして気づく。
体が痛いと、
育児にも家事にも
支障が出る。
あれだけ修行してきたのに、
現実は、
想像していたより
ずっとカオスだった。
それでも、
完全に孤立していたわけではない。
もともと通っていたゴスペルグループは、
赤ちゃん連れでも参加できた。
そこで歌う時間は、
ほんの少しだけ
気分転換になっていた。
体の痛みがきつくなってからは、
近所の整骨院にも通うようになった。
そこで、
もう一人の主夫と出会う。
今では、
チーム主夫ラボのメンバーになっている
林尚樹さんだ。
こうして、
少しずつ
つながりも生まれていた。
それでも。
疲労と睡眠不足は、
地味に積み重なっていく。
RPGゲームで例えるなら、
毎ターンHPを80回復しているのに、
毎ターン100のダメージを受けている状態。
回復しているはずなのに、
気づけば
HPはどんどん減っていく。
そしてある日、
そのHPが
一気にゼロになる瞬間が来る。
それが
「壁の穴事件」だった。

