壁に穴。
少しずつ冷静になった。
あの時の自分は、
もう限界だった。
寝れていない。
余裕もない。
頼れる人もその場にはいない。
それでも、
「ちゃんとやらなきゃ」
「なんとかしなきゃ」
って、
ずっと踏ん張り続けていた。
でも本当は、
踏ん張り続けられる状態じゃなかったんだと思う。
限界だったのに、
限界だって認められなかった。
どうしてあの時、
「助けて」と言えなかったのか。
今振り返ると、
いくつか理由があったと思う。
当時は、
「イクメン」という言葉が広がり始めていて、
「パパも育児を頑張ろう」
そんな空気があった。
そして、
パートナーに家事も育児も教えてもらって、
「任された」側だった自分は、
「自分でなんとかしなきゃいけない」
そう思い込んでいた。
だから、
「助けて」と言うことは、
どこかで
「できていない自分を認めること」のように感じてしまっていた。
でも、
本当は違ったんだと思う。
あの時必要だったのは、
「ちゃんとやること」じゃなくて、
「ちゃんと頼ること」だった。
壁に穴が空いたのは、
その結果でしかなかった。
もしあの時、
もっと早く「助けて」と言えていたら。
もしかしたら、
あの穴は空いていなかったのかもしれない。
でもきっと、
あの時の自分には、
そこまでの余裕すらなかった。
だから今は、
あの時の自分を、
責める気にはなれない。
むしろ、
よくあそこで踏みとどまったな、と思う。
あの夜、
本当に壊れてしまってもおかしくなかった。
そう考えると、
あの壁の穴は、
壊れそうになっていた自分を、
受け止めてくれたものだったのかもしれない。
もちろん、
そんなつもりで開いた穴じゃない。
でも今なら、
そういうふうに思える。
この出来事をきっかけに、
僕は少しずつ、
「育児」について発信するようになっていった。
パパの目線から見た、
リアルな育児の話。
それまでは、
「ちゃんとやること」ばかりを考えていたけれど、
この出来事を境に、
「ちゃんと話すこと」の方が大事なんじゃないかと、
思うようになった。
そこから、
数年後の『カジークジー誕生』につながる、
いろいろな活動を始めたのだった。

