『壁の穴事件』の話

あの頃は、正直かなり限界だった。

連日の夜泣きで、ほとんど寝れていない。

抱っこしてあやしても泣き止まず、
立っているのもしんどくて、
抱っこしたまま壁にもたれかかったり、
おでこを壁につけて、ただ小さく揺れる。

それしかできなかった。

体中の筋肉はパンパンで、
頭もぼーっとしている。

テレビで見た
「聖飢魔Ⅱの曲を聴かせると赤ちゃんが泣き止む」
という話を信じて、しばらく前から流していた。

最初は確かに効果があった。

でも、それもだんだん効かなくなっていった。

ある、パートナーが夜勤で不在の日。

最低限の家事を終わらせて寝室に行ったものの、
眠気とは裏腹に、こどもはどんどん泣き声を強めていく。

ふらふらしながら抱っこひもで抱っこして、
2階のリビングへ。

気を紛らわすために、
ひたすらドラクエのレベル上げをしながら、
ただ、揺れ続ける。

はぐれメタルやメタルキングを、
一体何匹倒しただろうか…。

—

一度おろして、
薄暗いリビングであれこれ試す。

授乳。
聖飢魔Ⅱ。
音の鳴るおもちゃ。
ビニール袋のカサカサ。
ぬいぐるみ。
リモコン型のおもちゃ。

思いつく限りのことをやってみる。

でも、泣き止まない。

結局また抱っこして揺れ続ける。

その頃にはもう、
体の奥から熱が上がってくるような感覚になっていて、

気づけば涙が溢れていた。

ドラクエの画面も、よく見えない。

「これはいつ終わるんだ」
「おれはいつ眠れるんだ」
「もう楽になりたい」

そんな言葉が、
頭の中をぐるぐると回っていた。

そしてある瞬間、

自分でも怖くなるような考えが、
ふっと頭をよぎった。

今思い返しても、
ゾッとする。

もちろん、
そんなことをするつもりなんてなかった。

でもそれくらい、
追い詰められていたんだと思う。

一度、こどもを大きなクッションにおろした。

泣き声が響く中で、
その場に立ち尽くした。

散らかったリビング。

近くにあったタオルを口に押し込んで、
クッションの前に正座して、

そのまま、
こどもに土下座するような格好で、
ただ泣いた。

しばらくして、
立ち上がった。

そして気がつくと、

近くにあったイスをつかんで、
壁に投げていた。

その時は、
穴が空いたことにも気づかなかった。

ただ、
どうしようもなくて。

助けてほしくて。

パートナーに電話をかけていた。

その後のことは、
あまり覚えていない。

気がつけば朝になっていて、

そしてようやく、
壁に穴が空いていることに気づいた。



後に、この経験が「主夫ラボ」立ち上げのきっかけになり、

さらにその先に、
育児対話型カードゲーム『カジークジー』
の開発へとつながっていくのだった。

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